PanCAN膵臓がんサミット参加レポート
九州大学大学院医学研究院 臨床・腫瘍外科 大内田研宙
 

 

Image

 

●オープンな雰囲気で開催されたPanCANサミット

去る8月3日から5日午前までの2日半にわたって、米国サンディエゴ近郊でPanCANサミット(と題した国際会議)が開催されました。

この会議には、膵癌を中心とする、全米・、欧州の代表的な膵癌を中心とする癌研究者 が招聘され、現在の膵癌研究 の最前線についての報告がなされました(全て招待講演)。また、さらにこれから特に力を入れて解決すべき課題をリストアップすることを目標に、非常に熱心 な議論がなされました。

会議は、朝の8時半から夕方の6時まで行われ、極めて濃密なものでした。また、会議の前後においては、Welcome PartyやDinner Partyが催され、会議に参加したすべての研究者がこれに参加して、研究者同士のコミュニケーションが活発に行われました。その結果、幾つかの研究グ ループの形成につながるなど、大きな成果が生まれており、これらの成果は、PanCAN (Pancreatic Cancer Active Network)という名称に非常によく合致したものであると感じております。

また、このPanCANサミットにおいては、研究者同士のコミュニケーションだけでなく、PanCANの運営を行っている多くの役員たちとのコ ミュニケーションも充分にとれるよう配慮されており、お互いの要望などオープンに話し合うことができ、学会発表等だけでは得ることのできない、患者サイド と研究サイドの相互理解や信頼感の形成に大きな役割を果たしました。


●私が興味を持ったサミットでの議論ポイント

上記のようなムードの中、本サミットは開かれましたが、実際の会議場ではしばしば非常に激しく議論がなされました。以下、本サミットにおいて議論された幾つかのポイントについて特に私自身が興味を持ちましたことを報告させて頂きます。

1,膵癌幹幹細胞の同定とその特徴に関して

まず、最初に議論されたのが癌幹細胞の報告に関してでした。近年、血液疾患を中心に、腫瘍細胞の中でもほんのわずかな(数パーセント)細胞集団だけがその腫瘍を生み出し、維持することができるとする癌幹細胞の概念が広く提唱されています。ここ2-3年の研究成果によ り脳腫瘍や乳癌など固形癌においてもこの癌幹細胞が存在することが示され、また昨年には大腸癌にも、本年には膵癌でも、その存在が示唆される研究成果が示されています。

本会議において、この膵癌の癌幹細胞の報告を世界に先駆けて行ったミシガン大学のDiane Simone博士が、彼女らの現況を未公表データも含めて報告しました。この報告後に行われた議論は、おそらく本会議を通じてもっとも激しいものでした。 この癌幹細胞の概念は、膵癌においても次第に研究の成果が蓄積されてきてはいますが、依然としてまだ膵癌を長く研究してきている研究者たちのコンセンサスをしっかりと得ているという段階ではないようです。しかしながら、もし膵癌の癌幹細胞の存在がさらに明らかに示され、これを標的とした治療法が今後確立されれば、膵癌治療のまったく新しいブレークスルーとなるという期待感が示され、現在の問題点など、前向きに様々な意見が集約されました。



2,膵癌の起源に関して

次に、膵癌の起源に関する議論がなされました。以前は、臨床病理学的見地から、もっとも一般的にみられるいわゆる通常型の膵癌というものは、膵管上皮に由 来するものであろうと考えられてきました。しかしながら、ここ数年でこの考えを覆す報告がなされてきています。本サミットにおいても、Johns Hopkins病院のSteven Leach博士らが、様々なtransgenic miceを用いた研究成果を報告しました。マウスやハムスターを用いた膵癌発癌実験は、かなり以前からされていましたが、この実験系においてもっとも大き な問題点は、これら動物モデルの発癌過程や発生した癌の形態が、人間でみられるものと大きく異なっていることでありました。しかしながら、近年の遺伝子改変技術により、現在では、人間でみられる発癌過程と非常に類似した膵癌を生じるマウスが開発されています。

本サミットでは、さらに、膵臓内の特定の種類の細胞に、あるいはマウスの発達段階の特定の時期に、あるいは炎症などの特定の環境下に、膵癌でよくみられる遺伝子変異を生じさせると、ヒト膵癌に非常に類似した病変が発生することが改めてレビューされました。これら一連の研究成果は、膵癌の起源が膵管上皮でな く、それ以外の例えば腺房細胞などであることを示すものでありました。こういった癌の起源を特定する試みは、真にヒトの膵臓で起こっている発癌過程をマウ スモデルで再現することにつながります。

現在、多くの膵癌患者さんたちは、進行癌の状態で見つかります。膵癌の予後が悪いのは、早期診断が困難なためであり、早期診断法の開発が急務ですが、逆 に、その早期診断の困難さのため早期膵癌症例が非常に少なく、そのことがさらに早期膵癌を検出するための研究の進行を妨げているという悪循環があるといえ ます。今回、サミットでは、上記のような新規の膵発癌モデルマウスを用いることにより、これまで解析することが困難であった多くの早期膵癌サンプルを入手 することができ、これにより新規のマーカーが同定される可能性が示され、この分野のこれからの成果を非常に期待させるものでありました。

その後、細胞内シグナルに関するものなど幾つかのテーマがさらに議論されました。会の終盤で、Johns Hopkins病院のRalph Hruban博士が講演され、その中で、「すでにわれわれは、膵癌に関する非常に多くの情報をもっており、もっとこの情報を使わなければならない」という ことを提言されていました。この提言により、ときには私自身が新しい分子や機能の解析に興味を奪われがちであることを自覚させられ、また、得られた研究成 果をしっかりと臨床につなげていくいわゆるトランスレーショナルリサーチの必要性を再認識させられるものでもありました。本サミットにおける全ての講演と 議論が私にとって興味深いものであったためか、夕食時を除いて会議場に缶詰であった2泊3日の会期が非常に短いものに感じられました。


以上、のように本サミットの内容をわずかですが、報告させて頂きました。正式な本サミットの成果は、後日「White Paper(白書)」として世界に発信されることとなっております。日本でも、白書を翻訳したものが公表される予定となっております。そのおりには、是非 多くの皆様方に熟読していただきたいと切望いたしております。

最後になりましたが、このような会議に参加する機会を与えてくださいましたPanCAN Japanの眞島氏、日本膵臓学会理事長の田中雅夫教授、また会議中たいへんお世話になりました東京女子医大の古川徹先生、日経BP社小崎氏に深く感謝致します。



九州大学大学院医学研究院 臨床・腫瘍外科 大内田研宙


topmessagedonation001

Take Action

druglag-petition

Tell us your story