Paul Silverstein

がんの統計数字以上の状態を目指して―私の挑戦

ポールシルバースタイン
2018年6月29日

■黄疸がでて―「目が黄色いですよ」と言われて

私は医師で、米国認定一般外科専門医です。2014年7月31日、オペ室で、看護師が私を見て「先生、目の色が黄いですが、大丈夫ですか?」と言いました。その時、医学的な問題もなく、健康だと自分で感じていましたので、彼女の言葉を聞いて正直驚きました。オペを終えた後、私は脱衣室に行き、鏡を見て、目の色が黄色いことを確認しました。その後すぐに、検査室に直行し、すべての項目の血液検査を行いました。「痛みのない黄疸」の最も一般的な原因は、特段の理由がない限り、膵臓がんであることを外科医として知っていたからです。

私は翌朝、血液検査の結果を受け取りました。私の検査値は概ね良好でしたが、肝機能の検査値は大きく上昇していました。これは私が恐れていたことを確認した格好でした。翌日のCTスキャンでは、膵臓の頭部に明らかな2.5cm大の腫瘤(しゅりゅう)が見られ、これはおそらく腺癌(せんがん)である可能性が高いと思われました。

■手術から始まった治療

私は、これらの結果を妻と話し合いました。私たちは可能であれば、オクラホマ市の自宅のそばの病院で手術を受けようと決めました。その病院の移植センターには優れた外科医が大勢いました。私はインテグリス・バプティスト・メディカルセンターのジョン・ダフィー先生を選び、すぐに電話をかけ、血液とCT検査結果を彼と一緒にレビューしました。彼は私の診断に同意し、腫瘍が上腸間膜血管に接触しているようには見えず、私の年齢(76歳)にもかかわらず、外科治療を受けることができる、状態のよい患者であると説明してくれました。

2014年8月8日金曜日、私は胆嚢(たんのう)と、膵頭部の3分の1、十二指腸の3分の1を切除する8時間半に及ぶ「膵頭十二指腸切除術」を受けました。私の腸管を切って、後でつなぎ合わせるこのメジャーな外科手術は、私の食事、体重管理などにさまざまな影響をもたらしました。

私の腹部から出ている8本のドレインを保護することが簡単でなかったのと同じく、痛みは重大な問題でした。私がICUにいる間、回復を助けるために、6本の静脈ラインに様々な液体のバッグが接続されていました(そのうちの1つは、痛みのコントロールのためのものでした)。

術後に確認した病理報告によれば、「幸いにも腫瘍が取り除かれた切断面には腫瘍のあとがなく、腫瘍全体がきれに切除されているが、2つのリンパ節は腫瘍細胞に関して陽性であった」と書いてありました。

膵臓がんのステージは、T(主腫瘍局所進展度)、N(リンパ節転移)、M(遠隔転移)の状態によって、国際基準のUICCのTNM分類で判定されますが、私の場合は、腫瘍がT2N2M0として分類されました。腫瘍は2.5cmより大きく(T2)、2つの腫れたリンパ節が発見され(N2)、遠隔転移はなかったこと(M0)を意味しました。

■術後の治療プロトコール

手術が終わり8日後には、私は自宅にもどることができました。すべてのドレインは抜いてもらえました。

私は外科手術後の補助化学療法をするために、インテグリス・バプティスト・メディカル・センターのブライアン・ガイスター先生のところに行きました。1ヵ月後、ポートが挿入され、ゲムシタビン+アブラキサンの抗がん剤治療がスタートしました。3週間ごとに2剤を注射するこのレジメンを6ヶ月間続けました。この間、3ヶ月ごとに計測されたCA19-9腫瘍マーカーおよびCTスキャンは、ともに正常になりました。その後、2ヶ月ほど休薬したとき、CA19-9が上昇したので、同じゲムシタビン+アブラキサンのレジメンをさらに6ヶ月コース継続しました。

2017年の終わりまで、ゲムシタビン+アブラキサンを投与しました。その間、必要に応じて、抗がん剤の副作用としてでてくる白血球の減少を抑えるためにニューラスタ(白血球増加剤)を、貧血に対処するためにプロクリット(赤血球増加剤)を注射しました。私の抗がん剤の主な副作用は、疲労と時折の下痢などでした。幸いにも、私は膵臓の部分切除した結果としてよくみられる糖尿病にはなりませんでした。

私のからだは化学療法をうまく受け付けてくれていたので、術後2ヶ月で、再び外科医としての仕事にもどることができました。仕事に没頭できたことで、膵臓がん生存率などの統計の心配をせずにすみましたし、またうつ病との戦いの助けとなりました。私の生活の質(QOL)は、疲れを除いて、ほぼ正常にもどりました。私は仕事をし、旅行し、講義をし、妻と一緒の時間を楽しむようにし、好きな水上スキーとかスキューバダイビングにも行ったりしました。

■ゲノム解析と血清検査の重要性

膵臓がんの文献を読み込んでいる外科医として発言するならば、これからの治療は、今日使用されている細胞殺傷性の薬剤を中心とした化学療法ではなく、そこから離れ、ゲノム検査と免疫療法が将来の膵臓がんの標準的な治療プロトコールになると信じています。

そこで私は、2014年にNPO法人でははじめてゲノム医療のバイオバンクプロジェクトをスタートさせたパンキャン(Pancreatic Cancer Action Network)を通して臨床試験を探してもらうことにしました。※1  そして、自分に適合しているとリストされた臨床試験を受けに、ダナ・ファーバーメディカルセンター(私の故郷のボストン市)とMDアンダーソンメディカルセンター(ヒューストン市)の両方を訪問しました。PET、CT、MRIで画像診断をしてもらったところ、目に見える転移はなかったので、どちらの臨床試験センターでも治験に参加することができませんでした。転移がなかったこと自体は嬉しいことでしたが、その結果、どちらのメディカルセンターでも治験に入ることはできませんでした。

私は化学療法を受けている間、自分のがん細胞のゲノム検査を受けることにしました。その結果、私の膵臓がんには4つの遺伝子変異がみられることを知りました。BRCAは正常でしたが、ATMとKRAS遺伝子変異だけでなく、2つの他の小さな遺伝子変異がみられました。

CA 19-9が手術後の値よりも上昇し始め、通常のレジメンであるゲムシタビンとアブラキサンにも反応しなくなった2017年11月に、わたくしの安定していた状態は終わりました。 PETスキャンとCTスキャンでは、切除した原発の傍にある2つのリンパ節に転移が見つかりました。

私はリキッドバイオプシー(血清生検)が必要でしたが、当時、この検査は膵臓がんではFDAに承認されていなかったため、自分が入っている保険ではカバーされないと言われました。私は地元の医師であるローラミルズ先生に相談に行き、先生の助言を受け、私は特別な容器に15ccの血液を入れて、ギリシャにある血液検査ラボに5,000ドルの小切手とともに送りました。

検査ラボでは、わたくしの血液1ml当たり7つの悪性腫瘍細胞が存在していることが判明しました。検査ラボでは培養したそれらの腫瘍細胞に対して、既存の化学療法剤が奏功するかどうかテストしてくれました。その結果、2017年12月にFOLFOX(フォルフォックス)へ移行することにしました。新たな治療を選択をするのにこの検査はとても役立ちました。米国でこのような検査が受けられないということは、とても腹立たしいことです。FOLFOX療法で治療をスタートしたところ、治療は効き始め、腫瘍マーカーは徐々に減少しましたが、残念ながら正常値にはなりませんでした。

■臨床試験について

FOLFOXの効き目が期待にそった内容ではないことを受け、パンキャンの臨床試験検索サイトを参照し、そこを通して、ペンシルベニア大学のアブラムソンセンターで予定されていた臨床試験について知りました。私の娘はペンシルバニア大学の救命獣医学の教授であり、私自身もペンシルバニア大学医学部の卒業生です。私が大学のロバート・ハイド博士に連絡を取ったところ、素晴らしいことに彼は相談に来なさい、と私を招待してくれました。

私は2018年4月に最初の訪問をしました。そこで臨床試験のキム・バインダー博士にお会いしたところ、バインダー博士は私に会えたことに興奮していました。理由は、FOLFOXに耐性ができた、転移のある患者さんを対象とした新しい臨床試験を計画していたからでした。彼女と彼女のスタッフは本当に家族みたいに私を温かく迎えてくれ、ケアも非常に快適でしたので、臨床試験に参加することにしました。

私はFOLFOX療法を止めて、今はPARP阻害剤+チェックポイント阻害剤の臨床試験(※2)に参加するのために2週間ごとにフィラデルフィア市まで通わなければなりません。幸いにも、FOLFOX療法のために入れた私のポートは、挿入されてからほぼ4年間開いています。 2018年6月29日現在、私は3回の試験薬による治療を受けており、次の週には4回目の治療が行われます。私は、指の痛みや疲労の末梢神経障害を除いて、化学療法の副作用は最小限です。実際、私は手術したときよりも今の方が気分的には楽になっています。

私は2018年7月11日に80歳になります。そして、診断、術後後4年になります。私の妻(眼科医)と私はオクラホマ市に残っています。私は昨年、外科医から退職し、「家庭の主夫」と庭師の役割を担っています。尋ねられたときには医学的な症例に関する相談を受け、また、毎年の医師生涯教育制度(CMEs)に参加することで医師ライセンスは維持しています。

私は、神の助けと、ダフィー博士、ガイスター博士、そして私の妻が私の命を救ってくれたと信じています。そして、私自身がサバイバーになることで「膵臓がんの一般的な統計には見られないような良好な状態の患者の例」になると信じています。私が参加する新しい臨床試験のプロトコールが私の腫瘍を抑制し、FOLFOXから卒業できるかどうかは、時がたたなければわかりません。時間について言えば、私は毎朝目を覚まして起きれること、また、ある程度健康に感じられることに感謝しています。

妻は私が健康な食事を食べ、体重を維持しているかを確かめてくれます。私は、免疫系の強さを増強すると考えられるいくつかの栄養補助食品を摂取しています。良い食事、運動、ポジティブな態度、そしてパンキャンによるサポートは、この非常に致命的な病気を撃退したり、抑制したりするために不可欠な、なくてはならないものなのです。

 

編集注:※1 米国ではNCCN診療ガイドラインに臨床試験をファーストライン治療として選択するよう強く推奨がでています。そのため、パンキャン本部では、患者・家族、医療者向けに臨床研究(治験を含む)の検索エンジンを提供しています。パンキャンジャパンでは、2012年から日本でも同様なサービスを提供するために、厚生労働省の研究プロジェクトに参加し、北里大学薬学部のチームとともに、日本語であいまい検索ができる入力ソフトを持つ臨床試験検索サイトのモデル構築にかかわりました。また、製薬協アドバイザリー委員としても同様な要望を提出してきました。しかし、いまだに研究プロジェクト以上に容易に患者が治験を検索できるサイトが構築されていません。患者が検索できるような検索エンジンの構築、臨床試験(治験)データに関する規制緩和策を進めてもらいたと思います。

編集注:※2 Semaphorin4Dについては、関連記事を参照ください。

 

 

 (Source:Survivor Story-Let's Win Lustgarten Foundation)

--------------------------------------------------

<免責事項>この医療記事は、サバイバーの経験を紹介する目的で書かれています。特定の治療法や薬の使用を推奨するものではありません。ご自身の病状については、担当医とよく話し合ってください。このウェブサイトの情報を利用して生じた結果についてPanCANJapanは一切責任を負うことができませんのでご了承ください。

 

 

 

 

 

 

topmessagedonation001

Take Action

druglag-petition

Tell us your story

すい臓がんについて知る