AACR: オフラベル医薬品(適応外薬)の使用について

~ゲノム難民をつくらないために、オフラベル医薬品の使用を日本でも進めよう~

米国では、医師は、ある目的で承認された薬を別の適応外目的のために使用することが法的に許可されています。しかし、分子標的薬を使用した治療法と免疫療法の併用療法は、適応外薬の選択肢をナビゲートするための新たな課題を生み出しています。

著者:ケイト・ヤンデル

2013年11月に、37歳のトリ・トマリアさん(Tori Tamalia)は、ステージIVの非小細胞肺がん(NSCLC)と告知されました。肺がんを治療するために新しい処方箋が与えられたとき、彼女はそれが日常的に処方される薬だろうと考えていましたが、薬剤師から彼女の健康保険会社が処方箋の支払いを拒否したため、この医薬品を使うには事前承認を取得することが必要であると伝えられました。

彼女の新しい治療薬であるクリゾチニブ(商品名 ザルコリ)は、2011年に米国食品医薬品局(FDA)により、ALK融合遺伝子変異を有する進行性非小細胞肺がん患者に承認されました。ミシガン州アナーバー市に住む3人の母親で、醸造所や劇場の所有者でもあるトマリアさんは、ALK融合遺伝子の代わりにROS1融合遺伝子変異を持っていることを知りました。臨床試験のデータによると、トマリアさんのようにROS1融合遺伝子変異のある患者さんはクリゾチニブで良好な成績を示したので、腫瘍専門医はクリゾチニブを彼女に処方しましたが、その時点では適応外薬でした。適応外薬を使ったオフラベル治療と呼ばれる治療法は 米国では合法であり、医学的にも一般的に行われています。

トマリアさんの保険会社は、2年以上もの長い間、適応外薬であったクリゾチニブを使った治療を保険でカバーすることになりました。 2016年3月に、FDAはクリゾチニブをROS1融合遺伝子変異が陽性の転移性NSCLC患者を治療するためことを承認しました。トマリアさんは、別に治療中の脳転移を除いて、まだ肺にある腫瘍を抑えるためにクリゾチニブを服用しています。一方、腫瘍内科医は現在、有望な臨床試験の結果に基づいてMET遺伝子に変異がある新しいグループのNSCLC患者に対して、クリゾチニブをオフラベル治療で使用しています。

免疫療法と標的薬剤の台頭により、オフラベル治療が、魅力的になっていますが、同時に複雑にもなってきています。分子プロファイリングの結果を用いて、患者さんは自分の種類のがんで十分にテストされていない適応外薬を試す機会も提供されています。また、完全に試験される前に適応外の新しい治療法を使用すると、一部の患者さんの寿命を延ばすことはできますが、適応外使用は経済的および物流面での障害を伴う可能性があります。

■がん治療の定番

医薬品の適応外使用は、最先端のものでも日常的なものでもかまいません。歴史的に見れば、米国の腫瘍学における処方箋の30〜50パーセントが適応外であることが示唆されています。標準治療法となるような適応外治療法は、National Comprehensive Cancer Network(NCCN)によってまとめられたものが、NCCNの診療ガイドラインに記載されています。しかし、がん患者は、自分が使用している薬が自分の癌の種類に対してFDAによって技術的には承認されていないことすら知らないかもしれません。

アラバマ州モービル市のラリー・シンプソンさんが、2014年70歳のときにステージIVの頭頸部がんと最初に診断されたとき、彼はカルボプラチンとパクリタキセルによる化学療法と放射線療法を受けました。この二つの医薬品に関しては、 1989年にカルボプラチンが、また、1992年にはパクリタキセルがFDAにより頭頚部がんで承認されました。今日、パクリタキセルはいくつかの癌種でもその使用がFDAにより承認されています。そしてNCCN診療ガイドラインにはカルボプラチン、パクリタキセル、またはその両方が、シンプソンさんのような頭頸部癌を含む12種類以上の癌種で使用されています。

2015年1月に、シンプソンさんは化学療法と放射線治療を完了しました、しかし夏になるとPET検査で彼の癌がアグレッシブに再発していることが明らかになりました。彼は地元の医師に相談したところ、自宅から450マイル以上離れたヒューストン市のMDアンダーソンがんセンター(MD Anderson Cancer Center)に行くことを勧められました。

MDアンダーソンで、IMPACT2臨床試験にシンプソンさんは入ることができました。この試験では、患者は腫瘍を生検し、遺伝子検査を行い、その結果に基づいて臨床試験に参加します。 シンプソンさんの癌には、PIK3CA遺伝子に変異があることが判明したので、PIK3CAが一部である信号伝達経路を標的とするテムシロリムス(商品名Torisel)と腫瘍に栄養を与える血管の成長を遅らせるベバシズマブ(商品名Avastin)の組み合わせを検証する臨床試験に入ることにしました。テムシロリムス(トーリセル)は腎臓癌に承認されている医薬品です。ベバシズマブ(アバスチン)は、結腸直腸癌、肺癌、脳腫瘍、腎臓癌、子宮頸癌、および卵巣癌の一部の患者に対して、単独または他の薬剤との組み合わせて承認されています。どちらの薬物も頭頸部癌に対しては承認されておらず、頭頸部癌のNCCN診療ガイドラインにこれらの治療法は含まれていません。

■適応外薬を使用した探索的臨床試験に参加する

臨床試験では、標準的な治療法を使い尽くした進行がん患者を対象に適応外薬の使用を試験しています。シンプソンさんのような患者さんの中には、その医薬品がFDAラベルに記載されている癌種を超えた、適応外の患者にとって有用かどうかをテストする臨床試験の一環として他のがん種に承認済みの医薬品による治療を受け取っている人もいます。

患者はこのような臨床試験の枠組みの外で、彼らの医師によって適応外薬を処方されているかもしれません。いくつかの有望な結果が報告されているにもかかわらず、腫瘍内科医および科学者は、標準療法とは見なされず、NCCN診療ガイドラインにも記載されていない、臨床試験外での適応外薬による治療方の選択には注意を促しています。シカゴ大学医学部で頭頸部癌を専門とする腫瘍内科医であるジョナス・デ・ソウザ博士(Jonas de Souza)は、「医師として、私たちは厳しい状況にあります。私たちは自分たちの患者を治療したいのです。腫瘍学全般の進歩により、まだエビデンスがない薬剤を患者に処方し始める可能性があります。」と述べています。

編集注:ゲノム検査により、特定の遺伝子変異陽性が判明し、それに対応するFDAにより承認された治療薬がある場合は問題ありませんが、まだそのがん種には適応されていない薬剤しかない場合もあります。

米国では患者の癌種に適応になっていない医薬品でも、他の癌種でよい治療成績をあげている場合、適応外使用が認められています。日本では適応外薬の使用は認められていないため、ゲノム検査を受け、特定の遺伝子変異陽性が見つかって対応する医薬品があるにもかかわらず、患者は使えないという状況が現行の制度では発生します。このように患者をゲノム難民と言います。ゲノム難民が発生しないよう、厚生労働省にはゲノム医療に関連する対応策を考えてもらいたいと思います。

 

(Source: AACR: Cancer Today March 2019)
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<免責事項>この医療記事は、米国での医薬品のオフラベル使用を紹介する目的で書かれています。特定の治療法や薬の使用を推奨するものではありません。ご自身の病状については、担当医とよく話し合ってください。このウェブサイトの情報を利用して生じた結果についてPanCANJapanは一切責任を負うことができませんのでご了承ください。

(編集注:パンキャンジャパンの眞島喜幸氏は、AACR Cancer Today編集諮問委員です)