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第1回 希少がん患者サミット開催
 診療ガイドラインに患者の参画を訴える

著者 小崎丈太郎

2019年4月27日


 一般社団法人日本希少がん患者会ネットワーク(RCJ)は2019年4月27日、国立がん研究センター築地キャンパス新研究棟大会議室を会場に「第1回希少がん患者サミット~これまでの希少がん、これからの希少がん~」を開催した(共催、国立がん研究センター希少がんセンター)。5大がんに比べて、治療技術の開発や診療体制の整備が遅れている希少がん医療の底上げをどのように図るべきか。専門家と希少がん患者やその家族とが協議した。


 「希少がん」は日本では、人口10万人当たり6人以下と希ながん(定量的定義)であり、患者が少ないために、診療・受療上の他のがんに比べて課題が大きい(定性的定義)という特徴を持っている。国立がん研究センター希少がんセンターの川井章センター長は「個々のがんの患者数が少ないために、乳がんや肺がんなどの5大がんに比べ、注目される機会が少ない。しかし、全ての希少がんの患者数を合わせると約190種類にも上り、がん患者総数の15~22%に達する。早急な対策を必要とする」と語る。

(編集注:NPO法人パンキャンジャパンが支援する膵神経内分泌腫瘍は、罹患率が10万人に1人以下といわれる希少がんのひとつである。国立がん研究センターによるゲノム研究プロジェクトであるマスターキープロジェクトに参加するため、パンキャンジャパンはRCJの発足メンバーのひとつとなった)


幅広く連携で“さざ波”を“大波”に

 オブザーバーとして、会の冒頭に挨拶した国立がん研究センター中央病院の西田俊朗院長は、希少がん医療の課題として、正しい診断が遅れる傾向にあり、治療薬が少ない、診療を進める医師やコメディカルの不足の3点を挙げ、「さざ波は大きなうねりとなって初めて社会が変わる。患者と医療の連携に加え、行政や製薬会社が一丸となって問題解決に当たる必要がある」と檄を飛ばした。
 RCJの設立は2017年。がん研究の促進、患者家族の支援、そのために必要な政策提言などのミッションを掲げている。参加団体は、パンキャンジャパン、NPO法人キュアサルコーマ、NPO法人脳腫瘍ネットワークなど合計16(ほかのリストはこの記事の末尾に紹介)。
 連携は国内にとどまらず、国境を越えたものに発展する見込みだ
 パンキャンジャパン理事長でもある眞島喜幸・RCJ理事長は、挨拶の中で、「希少がんのアジアネットワークを準備しているESMO(欧州がん学会)からネットワーク(RARE CANCER ASIA)へのRCJの参加を打診されている」ことを明らかにし、RCJとして国際連携に前向きな姿勢を明らかにした。


がんゲノム医療の期待と限界

 希少がんでは医師の側も診療経験に乏しく、正確な診断に時間がかかることも珍しくない。治療開始が遅れることはもちろん、確定診断までに間違った治療が施されてしまうこともある。がんゲノム医療の普及は、希少がんをめぐる現状の打開のきかっけになると飲み方もある。眞島理事長は「がんゲノム医療は希少がん患者にとって大きな福音」と期待する。厚生労働省はがんゲノム医療の体制を整備に注力しており、全国にゲノム検査とそれに基づいた治療ができる「がんゲノム医療連携病院」と検査を解析し、治験・臨床試験の情報を提供する「がんゲノム医療中核病院」の整備を進めている。
 がんゲノム医療の現場を立場から講演した北里大学医学部新世紀医療開発センターの佐々木治一郎教授は、「がんはがん遺伝子の異常な活性化やがん抑制遺伝子が変異して不活性化して起こる病気。そのため、そうした遺伝子の働きを止めることによって治療が可能になる。2018年12月に承認されたがん遺伝子パネル検査は最高324の遺伝子変異を検索して、正しい治療薬を選択することができる」と意義を強調した。
 しかし、治療標的が正確に特定できるようになりつつある一方で、それに見合った治療薬のラインナップが追いついていないという問題が浮上している。佐々木教授は、「パネル検査では約10%程度しか治療に行きつかない。パネル検査の意義を十分に生かすためには、治療提供体制の整備が必要」と指摘した。


希少がん治療の受け皿としてのMASTER KEY

 国立がん研究センター中央病院前副院長の藤原康弘氏(現、医薬品医療機器総合機構理事長)は、治療の選択肢が少ない希少がん医療の現状を改善するために、患者たちに同センターが進めてきたMASTER KEYプロジェクトへの参加を呼びかけた。
 「がん遺伝子検査パネルの登場によって遺伝子変異を基にがんの個別化医療が可能になりつつある。しかし現状では、5大がんであっても治療薬の提供に結びつく例は全体の10%。希少がんとなればさらにその割合は低くなる」と指摘した。
 MASTER KEYプロジェクトは、希少がんの効率的な治療薬の開発を目的に始まった事業で、希少がん患者を登録し、データベースの構築を目指している。患者個々のバイオマーカー(遺伝子異常や病気の原因になる蛋白質)を検査し、条件が合った場合は新しい治療薬候補の臨床試験に参加するできるシステムだ。現在、5つの医師主導治験と3つの企業治験が進行中で、さらに新たに3つの試験が準備中だ。
 新しい治療法にアクセスできることは患者にとって大きなメリットだが、それ以上に希少がん診療経験が豊富な施設で正確な病理診断や最善の治療を受ける機会が増えることが患者にとっては大切だ。MASTER KEYプロジェクトに参加している施設は国立がん研究センター中央病院のほか京都大学附属病院、北海道大学病院、九州大学病院の4施設のみだが、今後増えていく予定だ。 


63%の希少がん患者が臨床試験を希望

 RCJ理事で脳腫瘍ネットワークのガテリエ・ローリン理事長は、2018年にRCJが実施した「希少がんに関するアンケート」の結果の一部を報告した(回答数502、16の患者会から回答)。それによると、希少がん患者の10%は何らか臨床試験に参加した経験を持っていた。最も多かったのは消化管間質腫瘍(GIST)で29%、続いて脳腫瘍では12%、軟部肉腫で10%、胸腺がんと腹膜偽粘液腫がそれぞれ3%、神経内分泌腫瘍2%、骨の肉腫・小児脳腫瘍は0%という結果だった。また、臨床試験に参加した経験を持たない患者の中で「将来、臨床試験に参加したい」との回答は63%に上った。
 「患者の望み」を集計したところ、「適切な情報へのアクセス」が最多の74%となった。次に多かった回答が「新規治療法の確立」(66%)で、「希少がんの専門治療体制の確立」が63%と続いた。また「ゲノム解析に基づいた治療の確立」については35%の患者が希望していた。これらの結果を踏まえ、ローリン理事長は「患者の立場を反映した治療ガイドラインの整備とQOLに配慮した臨床試験・標準治療の確立が必要」と総括した。


希少がんの医療と患者向けガイドライン

 今回のサミットでは、希少がんの診療体制が十分でないとの指摘が相次いだ。その打開策としてRCJが計画しているのが医師と患者の判断や意思決定を支援する「診療ガイドライン」の整備だ。
 RCJ理事でNPO法人キュアサルコーマの大西啓之理事長が軟部肉腫を中心に内外のガイドラインの在り方を調査した結果を報告した。「一部の疾患では欧米で作成されたガイドラインが翻訳されているが、医療制度の違いが反映されておらず、日本国内で活用できるものになっていない。またガイドライン作成委員会に患者が参加し、患者の視点をガイドラインに導入することが重要であり、診療ガイドラインとセットで日本乳癌学会が行ったような患者向けガイドラインの策定を検討していく」ことを提案した。
 日本では患者が診療ガイドラインの作成に参加することが少ないが、「欧米では常識」と指摘したのは、公益財団法人日本医療機能評価機構理事で診療ガイドラインを評価しているMinds担当の福岡敏雄氏(倉敷中央病院人材開発センター医師)だ。「希少がんでは“希”であることが不利な立場につながりやすく、施設によって異なった治療が行われてしまう危険性がある。標準的な治療を挙有すること、さらに現時点でどこまで分かって、どこからか分からないのかを明らかにして、研究テーマを決定するためにも診療ガイドラインは必要である」と語った。

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パネルディスカッション
エビデンスがない段階の治療は

 最後に開催されたパネルディスカッションでは、希少がんの診療体制の確立とともに患者が協力の意義を確認する場となった。腹膜偽粘液腫患者支援の会の東靖子氏からは、「エビデンスが確立していない治療でもほかに選択肢がない場合では、一定の制限内で実施する選択肢も考慮してほしい」との見解を示した。これに対して、国立がん研究センターの川井・希少がんセンター長は「こうした要望が出ていることは理解できるが、(医学的な検証を得ていない治療は)結果的に患者に不利益になる治療法となる危険性もあることから、時間はかかるが臨床試験を行って評価するプロセスをはずすことはできない」と答えた。
 小児脳腫瘍の会の馬上祐子氏は「小児腫瘍の場合、白血病の治療成績は向上しているが、固形がんでは依然として治りにくいのが現状。希少がんのガイドラインの作成では、年齢によって不利益が生じないように配慮してほしい」と述べた。
 胸腺腫・胸腺がん患者会「ふたつば」の山本ゆき共同代表は、「パクリタキセルとカルボプラチンの併用療法が胸腺がんを適応に承認されたがその後の治療法がなく、治療薬を増やすことが課題。エビデンスがないから新薬の承認が遅れ、診療ガイドラインの整備も遅れるということであれば、患者が中心になって症例の集積を進めたい」と語った。
 臨床試験に参加しても、確実に治療効果が現れる訳ではない。会場からは「遺伝子検査を行ったが治療薬はなかった。それでも、研究のためになったことはうれしく思う」との発言もあった。司会のNPO法人GISTERS理事長の西舘澄人氏は、「次の患者のためになりたいという声は、GIST・肉腫患者の間でも聞かれるようになってきた。こういう思いも大切にしていきたい」と評価した。
 最後に眞島理事長が、「今回のサミットは第1回であり、希少がんの現状を様々な角度から議論することができ、多くの課題が明らかになった。次回、開催する場では“こんなに進歩しました”と報告できるように頑張りたい」と参加者に呼びかけて閉会した。

RCJ参加団体:横紋筋肉 腫患者の会、「すくすく」網膜芽細胞腫の子供を持つ家族の会、NPO法人キュアサルコーマ、トルコキキョウの会、稀少がん患者全国連絡会、中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会、胸腺腫・胸腺がん患者会「ふたつば」、肉腫の会 たんぽぽ、小児脳幹部グリオーマ、NPO法人脳腫瘍ネットワーク、小児脳腫瘍の会、腹膜偽粘液腫患者支援の会、神経内分泌腫瘍患者会(NPO法人パンキャンジャパン)、メラノーマ患者会Over The Rainbow、ユーイング肉腫家族の会、GIST(消化管間質腫瘍)・肉腫患者と家族の会 NPO法人GISTERS

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