米国NCCNガイドライン改訂にみる膵臓がん治療の進歩

~NCCNガイドライン(膵臓がん診療ガイドライン策定委員会)委員長が明らかにするゲノム医療、補助化学療法推奨の背景~

膵臓がんの治療成績は、生殖細胞系と体細胞の両方の分子プロファイリング(がん遺伝子パネル検査)の精緻化、および補助化学療法で見られる有益な効果により、それほど落胆しなくてもよくなってきています。膵臓腺がんのNCCNガイドラインはこれらの進歩を反映し、臨床医には膵臓がんのすべての患者の「生殖細胞系列遺伝子検査(Germline Test)」を検討し、転移性膵臓がん患者には「がん遺伝子パネル検査」を行い、がん細胞の遺伝子解析をするよう推奨しています。ガイドラインはさらに、臨床医が、忍容性のある患者に対して、mFOLFIRINOX(ロイコボリン/ 5-FU /イリノテカン/オキサリプラチン)による補助療法を検討することも推奨しています。

これらの最新情報を発表したのは、NCCNガイドライン委員長であるマーガレット・A・テンペロ医学博士でした。テンペロ博士は、カリフォルニア大学サンフランシスコ総合病院(UCSF)ヘレン・ディラー家族総合がんセンター、およびUCSF膵臓センター所長です。

写真1NCCN Tempero1

(編集注:テンペロ博士は、米パンキャン本部の科学諮問委員会の委員を長年務めており、NCCN膵臓腺がん策定委員会委員長を20年間務めています。今年7月に開催された第50回日本膵臓学会大会において、プレナリースピーカーとしてテンペル博士は招聘され、日本の膵癌診療ガイドラインも3年に一度ではなく適宜改訂される必要があるとコメントされました。)

■NCCNガイドライン策定委員会は新しい推奨事項をガイドラインに追加しました

数十年ぶりに、診断と補助療法の進歩が膵臓がんのアウトカムを改善しました。これらの進歩は、膵臓腺がんのNCCN診療ガイドラインへの追加事項として反映されました。新しい推奨事項は、臨床医が(1)膵臓がんのすべての患者に「生殖細胞系列遺伝子検査(Germline Test)」、(2)転移性がん患者に「がん遺伝子パネル検査(FoundationOneCDx、MSK-IMPACTなど)」、(3)mFOLFIRINOX(ロイコボリン/ 5-FU /イリノテカン/オキサリプラチン)に耐えることができる患者に補助療法としてmFOLFIRINOXの使用を考慮することが含まれています。

■膵臓がんによる死亡者の増加

これらの最近の治療法の進歩は、長らく待ち望まれていたものでした。ほとんどの悪性腫瘍による死亡者数は減少していますが、膵臓がんは米国において2016年にがんの死因第4位から第3位に移行し、乳がんを超えました。(編集注:日本では肝臓がんを抜いて第4位)人口は年をとりつつも長生きしており、革新的な新しい治療法はこの腫瘍の治療効果を改善することなく、ほぼ素通りしてしまったとテンペロ博士は述べました。膵臓がん患者の大多数は、切除不能な進行性疾患と診断されています。ほとんどの患者は治療後に再発を経験します。さらに、この疾患の「治癒率」はわずか9%であり、治療なしでは、転移性疾患患者の生存期間の中央値はわずか3ヶ月です。「これは非常に厳しい病気です」とテンペロ博士は述べました。 「初期症状はなく、腫瘍は早期に浸潤および転移し、化学療法への耐性がある程度あり、患者はサイトカイン媒介により症状を悪化させ、衰弱します。」

■転移性疾患の現在の治療は困難なままです

第一選択治療レジメンは依然としてFOLFIRINOXおよびゲムシタビン+ナブパクリタキセルであり、BRCA1 / 2およびPALB2遺伝子変異を有する患者ではゲムシタビン+シスプラチンです。(編集注:PARP阻害剤オラパリブ(商品名リムパーザ)は膵臓がんに対して年内にFDA承認される予定) ナブ・パクリタキセル+ゲムシタビンと比較して、FOLFIRINOXは反応率が幾分良好であり、無増悪生存期間および全生存期間(OS)と関連している可能性がありますが、適合患者に最も適しているのはこの難しいレジメンです。ナブパクリタキセル+ゲムシタビンは「FOLFIRINOXよりも管理しやすいレジメン」とテンぺロ博士は言いましたが、「公園を散歩する」ようなわけにはいかないと注意しました。治療の選択は、患者の好み、併存疾患、治療目標、治験薬との適合性、予測バイオマーカーに依存します。「今後、FOLFIRINOXとゲムシタビン+ナブパクリタキセルの両方を治療のベースにしたいと考えています」とテンペロ博士は言いました。

■NCCNガイドラインの進歩と最近の変更点

NCCNガイドラインは、膵臓がんの分子基盤の理解と臨床試験の結果の奨励に基づいて、臨床医が膵臓がんと診断された患者の「生殖細胞系列遺伝子検査」を検討し、転移性疾患を有する患者の「がん遺伝子パネル検査」を検討することを推奨しています。 FOLFIRINOXが補助療法として投与された場合、無病生存率と全生存期間(OS)の両方を改善することが最近示されているため、このレジメンは適合患者に考慮されるべきである、とガイドラインは記しています。
膵臓がんは多くの遺伝性症候群に関連しているため、生殖細胞系列遺伝子検査は重要です。家族性膵臓がんの現象もあり、この病気は複数の世代で発生しますが、典型的な遺伝子変異は見つかりません。 「それは、これらの家族のそれぞれがおそらく独自の病原性突然変異を持っているためです」とテンペロ博士は説明しました。 「それを探すことは労働集約的であり、患者を助けることに繋がりません。」

そのような家系では、第1度近親者および第2度近親者のスクリーニングは、毎年の超音波内視鏡検査(EUS)または磁気共鳴胆道膵管造影(MRCP)のいずれかを使用することが推奨されています。「EUS、MRCPは、これらの人々を管理する際の私たちの臨床プラクティスの非常に大きな部分になりました」とテンペロ博士は言いました。しかし、スクリーニングはリスクのあるすべての人を検出するわけではない、と彼女は言います。MSK-IMPACT※の研究では、さまざまな腫瘍タイプにおける有害な突然変異の頻度を決定しようとしました。予期しないものも含まれますが、突然変異の半分以上はDNA修復に関与する遺伝子にあり、これらの患者はプラチナを含むレジメンの恩恵を受ける可能性があることを示唆しています。しかし、驚くべきことに、これらの患者の42%にはがんの家族歴がなく、家族性膵臓がんのスクリーニングに関する現在の推奨事項も満たしていない可能性があります。これは、他の研究によっても証明された発見です。 「これにより、膵臓がんのすべての患者で生殖細胞系列遺伝子検査を強く検討するよう推奨されました」と彼女は述べました。 「これは、治療の方向性や他の家族に影響を与えるため、非常に重要です。」「UCSFで同じ生殖細胞系列遺伝子検査のプログラムを実装しました。普遍的な検査を開始しなければ認識できなかった生殖細胞変異の数という点で驚いています」と彼女は言いました。

(※編集注:MSK-IMPACTは、米FDA承認を受けている、がん細胞に生じた遺伝子異常を解析する検査で、がん関連遺伝子468個と18種類の融合遺伝子を一度に検査することができるがん遺伝子パネル検査の一種です。)

■DNA損傷修復遺伝子変異に対するPARP阻害剤

卵巣がんおよびDNA損傷修復遺伝子(BRCA1 / 2など)の変異を有する患者の場合、PARP阻害剤は有効性を実証しており、これらの薬剤は他の腫瘍でも承認されると予想されています。膵臓がんおよび生殖細胞系BRCA変異を有する患者に対するPARP阻害剤を評価する臨床試験には、転移性膵臓がんを対象とした一次治療におけるシスプラチン+ゲムシタビンを含むベリパリブの第II相試験、プラチナ療法後のオラパリブによる維持療法の第III相POLO試験があります。

興味深いことに、ベリパリブ試験の予備データは、ゲムシタビン+シスプラチン(Gem+CDDX)だけで、患者の約80%が反応を示す可能性があることを示しています。 「それは私にとって驚くべきことです。BRCA変異のある患者に簡単で忍容性のある(Gem+CDDX)レジメンを与え、FOLFIRINOXに患者を入れないことです」とテンペロ博士はコメントしました。 PARP阻害剤を追加すると、結果がさらに改善される可能性があります。 「私たちは間もなく、もう一の治療オプション(PARP阻害剤)が患者のために承認されることを期待しています。」

■ミスマッチ修復欠陥のプロファイリング

がん遺伝子パネル検査は、ミスマッチ修復欠損(dMMR)およびマイクロサテライト不安定性(MSI-H)の状態も検出します。腫瘍の種類を問わず、この表現型がある患者は免疫チェックポイント阻害薬ペンブロリズマブに反応する可能性があります。この薬剤は、あらゆる種類の転移性がんおよびdMMR / MSI-H状態の患者に承認されています。 dMMR / MSI-Hは膵臓がん患者のわずか1%にしか存在しませんが、ペンブロリズマブのきわめて重要な臨床試験では、dMMR膵がん患者の83%が反応を示しました。UCSFでは、dMMR / MSI-H検査は膵臓がん患者に対する最初の検査の一部であるとテンペロ博士は述べ、この評価から大いに恩恵を受けた1人の患者について述べた。 FOLFIRINOX治療後、進行した患者が数年間ペムブロリズマブに反応し続けています。「これはあなたが見つけたい干し草の山の針です」とテンペロ博士は言いました。 「私たちの考えでは、MSI-Hについて全員を検査し、一次治療後にペンブロリズマブを使用する価値があります。」

■分子サブタイピングの推奨

NCCN診療ガイドライン策定委員会は、膵臓がん組織の遺伝子パネル検査も強く推奨しています。主なドライバー変異はKRASですが、パネル検査で特定できる潜在的に対応可能な遺伝子変異は他にも多数あります。

全エクソームシーケンシング検査は、腫瘍のほぼ50%で理論的に作用可能なゲノム変異を発見し、症例の最大30%で臨床管理の変更をもたらすことが示されています。例えば、TRK融合遺伝子変異の同定は、昨年報告された極めて重要な試験に基づいて、患者がラロトレクチニブ投与の候補であることを意味します。したがって、腫瘍プロファイリングのパネル検査は、治療に影響を与える重要な情報を生み出す可能性があります。
「パネル検査を行わない場合、このTRK融合遺伝子阻害薬に適格な患者をどのように見つけますか?」とテンペロ博士は言いました。 「腫瘍の種類に「不可知」な薬剤が増えると思うので、これはより重要になります。」


テンペロ博士は、この追加の検査のため、診断の生検で十分な腫瘍組織を採取することがますます重要になっていると付け加えました。 「私たちは異なる方法で診断の生検を始めなければなりません。患者にこれらの治療を提供するのに十分な情報を確実に得るために十分な材料を得るために、複数の生検、穿刺吸引生検、およびコア生検を行う必要があります。」

■効果的な術後補助療法アジュバント療法の出現

昨年まで、補助療法の設定での治療は30年間あまり変わりませんでした。 「我々がやったのは、デッキチェアを動かすようなことだけでした」とテンペロ博士は言います。最も肯定的な臨床研究でも、全生存期間(OS)の中央値は約28か月のままでした。これは、腫瘍切除後のmFOLFIRINOX補助療法と単剤ゲムシタビンの補助療法を比較した第III相Unicancer GI PRODIGE 24 / CCTG PA.6試験の結果により変化しました。


mFOLFIRINOXによる治療は、切除後の膵臓がん患者でいままで報告されている最長の全生存期間(OS)をもたらしました。ゲムシタビンの35.0ヶ月と比較してmFOLFIRINOX補助療法54.4ヶ月(ハザード比[HR]、0.64; P = .003)でした。無病生存期間の中央値はそれぞれ12.8ヶ月対21.6ヶ月でした(HR、0.58; P <.0001)。ただし、mFOLFIRINOXレジメンでは毒性ははるかに高かったことが報告されています。グレード3〜4の有害事象は、この群の75.75%で発生しましたが、ゲムシタビン群では51.5%でした。したがって、コンセンサスは、この補助療法は、それを許容できる患者にのみ使用されるべきであるということです。「無病生存率にかなり印象的な差があり、ハザード比は0.58でした」とテンペロ博士は指摘しました。 「OSデータの解析はまだ早いですが、見た目はとても良いです。 NCCNガイドラインにこの補助療法を組み込むにはこれで十分でした。」

別の補助療法であるゲムシタビン+ナブパクリタキセル療法対ゲムシタビン単独療法がAPACT試験で評価されており、テンペロ博士が世界の主任研究者です(図1)。結果は非常に期待されており、2019米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会で発表される予定です。

注:APACT試験研究デザイン(ClinicalTrials.gov識別子:NCT01964430)。
引用:Journal of the National Comprehensive Cancer Network J Natl Compr Canc Netw 17、5.5; 10.6004 / jnccn.2019.5007

「特に術後のFOLFIRINOX療法をすべての患者が治療できるわけではないため、これらの臨床試験により、補助療法の設定に別の治療選択肢がでてくることを願っています」とテンペロ博士はコメントした。

写真2NCCN Tempero2

https://bit.ly/2kzDjH8

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SOURCE:
Author: Margaret A. Tempero
Volume/Issue: Volume 17: Issue 5.5
Online Publication Date: May 2019
DOI: https://doi.org/10.6004/jnccn.2019.5007

 

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