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AACRニュース:BRCA遺伝子検査は誰が受けるべきか?

BRCA1およびBRCA2遺伝子変異の検査により、乳がん、卵巣がん、膵臓がんのリスクを低減する機会が生まれます。しかし、この変異が発見されてから25年経ちますが、遺伝子検査の恩恵を得ることができる人がまだ検査を受けることができません。

2019年12月23日

著者:スー・ロックマン

マリソル・ロサスさんは、母親のセリア・バズア・デ・ロサスさんが卵巣がんで亡くなった1981年のときはまだ8歳でした。これは母親の2回目のがんでした。母親のセリアさんは、6番目で最後の子供であるマリソルさんが生まれた直後、42歳のときに乳がんと診断されていました。メキシコのバハカリフォルニアで育ったマリソルさんの兄弟姉妹にとって、「これは私たちの誰にでも起こりえることだ」と彼女は言います。 兄弟が年をとるにつれて、家族の母親側の3人のいとこががんと診断されたため、心配が大きくなりました。 「乳がんが脳に拡がった従妹がいます」と、マリソル・ロサスさんは言います。「別の従妹は乳がんを患い、その後再発しました。別の従妹は、乳がんと卵巣がんを患い、その後膵臓がんで亡くなりました。何かが起こっていることは知っていましたが、どうすればいいのかわかりませんでした。」

その後、1998年に、マリソル・ロサスさんはメキシコから米国カリフォルニア州に移住した従妹から電話を受けました。この従妹は、米国の医師から、乳がんと卵巣がんのリスク増加の兆候を探すことができる新しい血液検査について説明を受けたことを話してくれました。従妹の検査結果は陽性でした。従妹は、ロザスさんと彼女の兄弟も検査を受けるべきだと説得しました。

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写真 マリソル・ロサスさん、夫のルイス、息子のサンティアゴ(左)、ニコラス(中央)

撮影:Rebeca Rosas

ロサスさんの従妹は、BRCA1およびBRCA2遺伝子(BReast Cancer Genes 1 and 2)の有害な変異または病原性遺伝子について検査された最初のグループの一人でした。誰もがBRCA遺伝子を持っています。しかし、母親や父親から受け継いだ特定のBRCA遺伝子の病的な変異を持ち、がんのリスクが高まっている人もいます。ある研究では、遺伝性BRCA1変異を持つ女性の約72%、また遺伝性BRCA2変異を持つ女性の約69%が80歳までに乳がんを発症すると推定しています。

すべての乳がんと診断された人の約5%〜10%は遺伝性であると考えられており、BRCA1およびBRCA2の突然変異が最も一般的な原因です。これらの遺伝子は乳がんとの関連性からBRCAと命名されましたが、卵巣がんのリスクも大幅に増加させ、BRCA1変異を有する女性の約44%およびBRCA2変異を有する女性の約17%が卵巣がんを発症すると予測されています。これらのBRCA変異を持つ女性は、卵巣がんと診断された人々の約15%を占めています。

編集注:膵臓がんと診断された人の約5%~10%は家族性膵臓がんであると考えられています。

1996年に市販されたBRCA変異の検査は、高リスクな女性を対象とした外科的介入(乳房と卵巣の除去)の機会を提供し、これらのがんになる可能性を大幅に減らしました。乳がんまたは卵巣がんと診断された女性でBRCA検査が陽性だった場合も、治療の決定に有益な情報を提供できます。 しかし、BRCA変異は、乳がんと卵巣がんのリスクを高めるだけでなく、また女性だけに見られるわけではありません。研究は、これらのBRCA遺伝子の突然変異は黒色腫と膵臓がんおよび前立腺がんのリスクを増加させることを示しました。これらの発見は、遺伝子検査の価格の劇的な低下とともに、BRCA検査の拡大を求める声につながりました。

■リスク低減につながるBRCA遺伝子検査

BRCA変異の検査が利用可能になるとすぐに、誰を検査すべきかという疑問が提起されました。 2005年、米国予防サービスタスクフォース(USPSTF)は、BRCAの検査と遺伝カウンセリングに関する最初のガイドラインを発行しました。 BRCA遺伝子検査は、乳がんまたは卵巣がんの家族歴のある女性に限定すべきであると判断しました。それ以来、USPSTFはBRCA遺伝子検査に関する推奨事項を拡大してきました。 2019年8月に発表された最新のガイドラインでは、USPSTFグループは、以前に乳がんまたは卵巣がんの治療を受けた女性と、二次がんのリスクを減らすために、必要に応じて検査を提供することを推奨しました。また、アシュケナージ系ユダヤ人祖先は、これらの突然変異のリスクが高いため、アシュケナージ系ユダヤ人の女性全員にBRCA遺伝子検査が推奨されています。

ポートランド市のオレゴン健康科学大学の疫学者であり、2019年のガイドラインのエビデンスレビューを主導したハイジ・ネルソン博士は、「2013年の最後の更新以来、がんにかかっていない女性が遺伝子検査を受けることに適した候補者であるかどうかという質問に、タスクフォースが直接答えるために検討すべき新しい情報はあまりない」と言います。

他の専門家は、基準をさらに広げるとより多くの女性に利益をもたらすと主張しています。このグループには、1994年に癌の発症リスクを増加させるBRCA1変異を発見したメアリー・クレアキング博士が含まれます。彼女は、すべての女性がBRCA変異について検査されるべきであると主張する論説を2014年に米国医師会雑誌(JAMA)で発行しました。

「女性ががんを発症した後に(BRCA遺伝子変異の)キャリアとして特定することは、がん予防の失敗です」と彼女は書きました。 BRCA検査を標準の検査とすることは、アメリカの白人女性のように遺伝子検査が提供されることが少ない黒人女性とラテン系女性に直接影響を与える可能性があります。

■男性を検査に取り込む

USPSTFは、特に女性のBRCA遺伝子検査に関するガイドラインの作成を担当しました。彼らの勧告は、患者保護並びに医療費負担適正化法(Patient Protection and Affordable Care Act)における女性の予防ケアの適用範囲に反映されており、保険会社はリスクの高い女性の遺伝カウンセリングと遺伝子検査の費用を支払う必要があるというものでした。このフォーカスは、遺伝性リスクの検査は女性のみである、またはリスクを高める遺伝子変異は女性から娘にのみ伝わると推測するように誰かを容易にミスリードする可能性があります。しかし、現実はそうではありません。 BRCA突然変異は男性にも見られ、男性にも受け継がれます。乳がんのリスクはそれほど高くはありませんが、2007年の研究では、BRCA1変異の男性の約1%とBRCA2変異の男性のほぼ7%が70歳までに乳がんを発症しました。BRCA2遺伝子に病的な変異のある男性は突然変異を持たない男性よりも前立腺癌を発症する可能性が7倍高いことがわかりました。

「男性は多くの医師に忘れられがちです。BRCA変異は女性に固有であり、女性にのみ関連すると考えられています」と、ミシガン州ロイヤルオーク市のボーモントヘルスの乳がん専門医および癌遺伝学者であるダナ・ザカリック医師は言います。 2018年のBMCがんの研究では、BRCA変異を有する男性で複数のがんが高率で発見されました。 「私たちのなかにはまだ父親を通しても遺伝するということに気が付かず、母親を通してのみ遺伝し、母親のがんの歴史のみを見る必要があると考える医師がいます。しかし、男性は女性と同じようにBRCAを遺伝することができます。」

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写真: 前立腺癌の生存者マイケル・サドマン氏と妻シェリルさん

撮影 マリアン・エベレスト

 

この知識は、カリフォルニア州ベンチュラに住む55歳の弁護士で、幼い頃からがんが家族の女性に影響を与えたことを見てきたマイケル・サドマン氏のような男性を助けることができます。最初に、彼の叔母が乳がんで亡くなりました。その後、彼の従妹、叔母の娘が卵巣がんで亡くなりました。 2000年に、彼の妹のローラさんは40歳で乳がんと診断されました。彼女は2008年に亡くなりました。ローラさんは、乳がんの診断を受けてから数年後に遺伝子検査を受けました。それが彼女がBRCA1遺伝子変異を持っていることを知ったときです、とすぐにサドマン氏は他の2人の姉妹も遺伝子検査を受ける必要性があると考えたと言います。

彼は自分もBRCAの突然変異を持っているかもしれないという考えが頭から消えなかったと言います。最終的に、サドマン氏の看護師が彼が検査を受けることを提案しました。検査結果は、彼がローラさんと同じ突然変異を持っていることを示しました。彼らの他の2人の姉妹は幸いネガティブな検査結果となりました。サドマン氏は、彼とローラさんが、遺伝子検査を受けたことがない、前立腺がんのある父親から突然変異を受け継いだと考えています。 サドマン氏のBRCA検査結果と看護師によるがんのリスクに対する説明により、がんの遺伝子変異と発症リスクに関する意識が高まり、2015年の早期前立腺がんの診断につながった、と彼は言います。

現在、彼はロサンゼルスの南カリフォルニア大学ノリス総合がんセンターと前立腺がんの患者支援団体ゼロー前立腺がんの撲滅(Zero – The End of Prostate Cancer)と協力して、前立腺がんと男性の遺伝性がん検査に関する認識を高める啓発活動に協力しています。 「どこをみても、男性のBRCA遺伝子変異の記事を見つけることは容易ではありません」とサドマン氏は言います。

■がん発症後の検査

医療専門家向けにエビデンスに基づいた臨床治療ガイドラインを開発しているNCCN(National Comprehensive Cancer Network)は、BRCA関連「乳がん卵巣がん症候群(HBOC)」と診断された男性の検査を含むように推奨を拡大しました。 2019年1月に公開された最新のNCCNガイドラインでは、卵巣がんと診断されたすべての女性、乳がんと診断されたすべての男性、および膵臓がんと診断されたすべての女性と男性の生殖細胞系列遺伝子検査(Germline Test)を推奨しています。

しかし、NCCNガイドラインでは、乳がんのすべての女性を検査することを推奨するまでには至らず、代わりに対象者の選定には家族歴、診断時年齢、および乳がんの種類に基づく基準に焦点を当てています。対照的に、2019年7月にリリースされたアメリカ乳房外科医協会のガイドラインでは、すべての乳がん患者が生殖細胞系列遺伝子検査を受けることが求められています。

BRCAは、乳がんに関連する最も一般的な遺伝性突然変異であり、すべての遺伝性乳がんの約20%〜25%を占めています。しかし、新しい突然変異の同定と低コストの多重遺伝子パネル検査の導入により、ほとんどの乳がん患者は現在、BRCA以上の遺伝子の検査を受けています。たとえば、乳房外科医協会のガイドラインでは、少なくともBRCA1、BRCA2、およびPALB2の変異について患者を検査することが求められています(PALB2遺伝子はBRCA遺伝子がDNAを固定するのを助けます。この遺伝子の突然変異はがんのリスクも増加させます)。

しかし、どの遺伝子を多重遺伝子パネル検査に含めるべきかは未解決の問題です。 ザカリック博士によると、80種類の遺伝子を検査するパネルが用意されていますが、このような多くの遺伝子を検査できるからといって、特にまれな突然変異を有する患者の治療方法に関する研究が進んでいないため、そこまで検査する必要はないと言います。

■最も検査が必要な人に検査を

BRCA遺伝子検査のスクリーニング基準を広げ、より多くの遺伝子を検査することで、遺伝性がんのリスクのある、より多くの人々を特定することができます。しかし、すでに基準を満たしている乳がんまたは卵巣がんの既往歴のある120万人以上の女性が検査を受けていない状況があるなか、突然変異を起こす可能性が低い人を検査に連れて行くことの価値を疑問視する人もいます。

「検査の閾値がどうあるべきかについての議論が行われている間、現在検査にアクセスできていない、突然変異を持つリスクが最も高いのは黒人女性であり、スペイン系の女性です。これは多くの場合少数ですが、この格差に対処する必要があります。」フィラデルフィアのペンシルベニア大学ペレルマン医科大学の乳癌遺伝学者であるスーザン・ドンチェク博士は言います。

カリフォルニア州パロアルトのスタンフォード大学女性臨床がん遺伝学プログラムを主宰するがん遺伝学者および腫瘍内科医であるアリソン・キュリアン博士は、2019年5月20日、米国臨床腫瘍学会(ASCO)の臨床腫瘍学ジャーナル(Journal of Clinical Oncology)で、77,085人の遺伝性がん検査率を調べた研究を発表しました。ジョージア州およびカリフォルニア州では2013年から2014年にかけて診断された6,001人の乳がん患者と卵巣がん患者が調査されました。10年以上にわたり、NCCNガイドラインは卵巣がんと診断されたすべての女性の遺伝的な遺伝子検査(Germline Test)を求めてきました。しかし、この研究では、卵巣がん患者の約3分の1しか検査されていなかったことがわかりました。キュリアン博士が「驚くべき、驚くべき」と呼ぶ結果でした。次の研究テーマは、 「保険が検査費用を払ってくれるか」だと彼女は言います。

■遺伝子検査と遺伝カウンセラーの必要性

潜在的なBRCA遺伝子変異キャリアの過小評価は、テキサス州ヒューストン市MDアンダーソンがんセンターの婦人科腫瘍医であるキャレン・ルー博士が、遺伝学的基準を満たす4,000人の女性を登録し、遺伝子検査とカウンセリングに関する「遺伝子検査を受けやすくする(Making Genetic Testing Accessible:MAGENTA)」研究を開始した理由です。女性には(生殖細胞系列遺伝子検査のための)唾液検査キットが提供され、オンラインビデオ教育や電話による事前および事後カウンセリングなど、対面の遺伝カウンセリングに対する代替アプローチを受けるためにランダムに割り当てられます。 「私たちは遺伝子検査をどのように提供するかについて非常に慎重でしたが、現実には、それを必要とするこれらすべての人々にサービスを提供するために充分な遺伝カウンセラーがいません」とルー博士は言います。

がんのリスクを高める突然変異を持っている可能性があることを子供に知らせることは困難です。ここでは、継承された突然変異についてカウンセリングをする専門家がヒントを共有しています。 2009年になって、当時結婚し2人の息子をつれてセントルイス市に住んでいたロサスさんは、1998年に従妹が最初に彼女に伝えた遺伝子検査を受けたいと医師に相談しました。受けた検査の結果は陽性でした。「時限爆弾を抱えているように感じました」とロサスさんは言います。その後、彼女は二重乳房切除術(Bilateral Risk―Reducing MastectomyBRRM)を受け、卵巣は摘出しました。また、彼女は姉妹と兄弟に、遺伝カウンセリングと遺伝子検査のためにメキシコからサンディエゴ市まで車を運転してくるように説得しました。その結果、「6人の子供のうち、その遺伝子変異があるのは私だけだったことがわかりました」と、ロサスさんは家族のBRCA遺伝子の検査結果について語っています。

支援を求めて、ロサスさんは遺伝性がんの患者を支援する団体「フォース(FORCE:Facing Our Risk of Cancer Empowered)」に目を向けました。フォース(FORCE)は、遺伝性のがん発症リスクを持つ個人に情報とサポートを提供する組織です。 「自分たちが経験していることについて、女性が本当に開かれているこのような患者支援団体コミュニティを見つけることができるのは素晴らしいことです」と彼女は言います。すぐに、彼女は他の人を助けるためにボランティアとして参加することにしました。

現在、カリフォルニア州アーバイン市に住んでいるロサスさんは、フォース組織の全国ヘルプラインとピアナビゲーションプログラムを監督し、全国のボランティアを遺伝性突然変異について最近知った個人と結び付ける役割を担っています。彼女はまた、ラテン系コミュニティへ遺伝カウンセリングと遺伝子検査についての情報を広めることに時間を費やしています。 「多くの人ががんにかかったことを知った後、または母親が検査を受けるべきかどうか、そして健康保険がそれを支払うかどうかを尋ねるため、私に相談してきます」と彼女は言います。そのような人々を彼女は喜んで助けています。

 

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関連情報:

1.海外ニュース:オラパリブはBRCA変異陽性転移性膵臓がん患者の無増悪生存期間を有意に延長  https://bit.ly/3ao25iw

2.PanCANマイトラ先生が選らぶ膵癌治療を変えた試験:その1 POLO試験(リムパーザ 本邦未承認) https://bit.ly/38h3vJV

 

SOURCE: Cancer Today; https://www.cancertodaymag.org/Pages/Winter2019-2020/BRCA-Who-Should-Be-Tested.aspx

Translated by: Yoshiyuki Majima(PanCAN Japan) is a member of Cancer Today's Editorial Advisory Board. (https://www.cancertodaymag.org/editorial-advisory-board)

 

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