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がんの遺伝子検査は、すい臓がん治療の指針となるか

がんの遺伝子変異にマッチした治療をうけた患者は、生存率を高める結果につながった

2020年4月16日 

著者:シェリル・プラッツマン・ウェインストック

進行すい臓がん患者で、がん組織の分子検査をおこない、その遺伝子変異にマッチした分子標的薬(がん狙い撃ちする薬剤)の治療を受けた患者は、そうでない患者(変異にマッチした治療を受けられなかった)より長生きした、とLancet Oncolgyが研究結果を発表した。

 

がん遺伝子パネル検査を推奨するKnow Your Tumor(自分の腫瘍を知ろう)に登録されている1,856人(2014〜2019年)のすい臓がん患者のデータを分析した。Know Your Tumorとは、カリフォルニアに本部を置く米国パンキャンによって立ち上げられた、がん遺伝子解析をおこなうバイオバンク事業で、がん細胞がもつ特有の遺伝子変異や分子変化を研究するため、がん組織の分子プロファイリング検査を積極的にすすめている。その検査を受けた患者は、自身のがん細胞の特性、その遺伝子変異に治療効果が期待できる(がん細胞やっつける)薬剤が、米国FD承認済のもの、または開発中のものを含め、存在するかどうか、の報告書を受け取ることになっている。この研究資金はパンキャンとヴァージニア州に拠点をおくMcLeanによってなされている。

Know Your Tumor(自分の腫瘍を知ろう)登録中の1,082人が、がん遺伝子パネル検査をうけた。Perthera社の医療審査委員会は、臨床試験での有効性に基づき、患者のもつ遺伝子変異が治療できる標的遺伝子(アクショナブル遺伝子変異)かどうかを判断した。その結果、282人が治療可能な遺伝子変異であることがわかった。

編集注:*Actionable(アクショナブル)遺伝子変異とは、治療効果が期待できる薬剤が存在する標的遺伝子のこと。この中には、同じ遺伝子変異を標的としていて、他のがんですでに使用されている適応外薬や臨床試験中の薬剤を含む。

進行すい臓がんと診断された患者で、治療法が存在する遺伝子変異をもつ患者189人中、46人は遺伝子変異にマッチした治療を受けられた患者で、残り143人は遺伝子変異にマッチした治療を受けられなかった患者であった。そして治療薬が存在しない遺伝子変異をもち、標準治療をうけた患者488人に関しての生存期間中央値が発表された。

1           治療薬が存在するアクショナブル遺伝子変異をもち、それにマッチした治療をうけられた患者  -  2.58年

2           治療薬が存在するアクショナブル遺伝子変異をもち、しかし、マッチした治療を受けられなかった患者  - 1.51年

3           治療薬が存在しない遺伝子変異をもつ患者  -  1.32年

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治療薬が存在する遺伝子変異なのに、どうしてそれにマッチした治療を受けていないのか、という疑問には様々な理由が挙げられよう。まず、治療が臨床試験の場合、治験への参加条件、特定の地域での場合そこまでの移動手段や移動に要する時間などの制約が考えられる。またFDA承認医薬品であっても、それが他のがんで使われている薬剤で、すい臓がんには適応外薬であるケースもあるし、その処方を出したがらない医師など、常にマッチした治療法が選択されないこともあるのだ。

「アメリカでは2020年に約56,700人が臓がんと診断されるだろう」とこの研究のリーダーであるヒューストン テキサスMDアンダーソンがんセンターの消化器内科腫瘍医、Perthera社の最高医療責任者でもあるマイケル・ピシヴァニアン医師は続ける。「90%の患者さんは最終的にはすい臓がんが原因で亡くなります。しかしそのうちの25%の患者さんは遺伝子解析をうけ、それに合った分子標的治療をうける。つまり数値的にいえば、年間12,750人もの患者さんが、がん遺伝子変異の違いに基づいて、マッチした治療薬の投与がなされるということになります。」

「課題のひとつとして、がん遺伝子パネル検査は保険適用でないということです。患者負担にしない研究所もあれば、患者の負担とするところもあり、高額出費となる場合もあります。しかし、Know Your Tumorに参加すれば、その心配はいりません」とピシヴァニアン医師は話す。

メリーランド州がん研究センターの研究調査員であるウド・ルドロフ氏は「患者はすい臓がんの遺伝子検査も含め、全ての検査と治療法のオプションについて、主治医と話し合うべきだ」とし、「ゲノム解析をうけ、検査結果に基づいた治療をうけた患者は、ゆるやかなQOL生活の質の向上がみられる。しかし、すい臓がんという難治がんの全体像を変えたわけではない。さらなる創薬の加速と、治療薬の開発,研究を押し進めていかねばならない」と述べた。

デラウェア州出身のジーナ・ハリソン氏(59歳)は2018年3月、すい臓がんステージIIBと診断された。その時、自分のがん種を知る手助けになればとKnow Your Tumor(自分の腫瘍を知ろう)に登録した。8月、フィラデルフィアのトーマス・ジェファーソン大学病院でがんの切除手術をしたとき、がん組織の分子プロファイリング検査をうけた。

術後6ヶ月間の薬物療法を続け、ハリソン氏にがんの兆候はみられなかった。しかし2019年6月になり、肝臓、他の部位にまで転移していることが判明。彼女はKnow Your Tumorからの報告書を手に取り、自分にはBRCA1に変異があることを知った(腫瘍の中で発生したものであり、遺伝性のものではない)。BRCA変異はプラチナ製剤ベースの化学療法と、分子標的薬PARP阻害剤に効果を示すといわれている。送られてきた10ページに渡る報告書の中には、7つの臨床試験への案内が入っており、彼女にぜひ参加を検討するよう詳細が載っていた。ハリソン氏はその中からひとつを選び、治験に参加する決意をした。その治験では、PARP阻害剤ニラパリブと免疫チェックポイント阻害剤を組み合わせたもので治療することになっている。

2020年1月からこの臨床試験に参加している。主治医のアブラムソン・がんセンターのトマス•カラジック腫瘍内科医によれば、高かった腫瘍マーカーCA19-9の数値も今回の検査ではすっかり正常値になっており、がんの痛みも消えているようだ、と話す。

「特にすい臓がんでは、ゲノムシーケンス遺伝子解析も研究途中であり、分子標的薬の開発が進んでいないのも事実で、その結果、標準の薬物療法におさまってしまうケースが多い。しかし、「がんゲノム医療」を通して、がん組織検査によるがんの遺伝子変異にマッチした治療を行う、オーダーメイドの治療(精密医療)が、今後のすい臓がんの診断、治療に大きな意味をもつことであろう」

Translated by S. Morita

Resource: https://bit.ly/2WRrXPh

記事ここまで。
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米国パンキャン本部の代表ジュリーフレッシュマン氏もNPO法人パンキャンジャパンの眞島喜幸氏も共に、米国癌学会AACR Cancer TODAYの編集諮問委員です。この記事は、編集諮問委員の提案により執筆されました。

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米国パンキャン本部では、膵臓がん患者から1000症例以上の検体を集め、その遺伝子解析を行い、膵臓がんに多くみられる遺伝子変異を調べてきました。詳しくはASCOレポートを参照ください。https://bit.ly/2CH6jmJ

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